Kit Armstrong (Piano) Keyboard Music Chronicles (1520-2023) IV by Chopin, Debussy, Liszt, Fauré, Schoenberg, Arnold, Leo Ornstein, Bach, J. S., от (2023/2023), Tokyo Bunka Kaikan, Tokyo, Japan

夜想曲は中世に起源を持つが、ピアノ独奏曲のジャンルとしては、ショパンと同時代に名ピアニストとしても名を馳せたアイルランドの作曲家ジョン・フィールドに端を発する。ショパンもワルシャワ時代にフィールドの演奏を聴いたと伝えられている。ショパンの夜想曲は全21曲あり、20歳の頃から晩年に至るまでほぼ全創作期にわたって書かれた。1830～31年に作曲された「第5番」は、ラルゲットで語りかけるように始まり、その穏やかな優美さで人気のある曲。1833年作曲の「第6番」は、夜想曲としてはめずらしく二部形式。どこか憂愁にみちた曲で、ショパンが『ハムレット』を観劇した翌日に書かれたとも伝えられている。1835年に作曲された「第8番」は、非常に繊細な美しさを持つ曲で、夜想曲の中でも人気曲の一つ。洗練された甘美な旋律をひたすら堪能できる。ダボニー伯爵夫人に献呈されたことから「貴婦人の夜想曲」とも呼ばれる。 ドビュッシーの《映像 第1集》は、1904～05年の作品。3曲で構成されており、「第1曲 水の反映」は、文字通り揺れ動く水面を音楽に写している。「第2曲 ラモーを讃えて」は、フランスのバロック時代の作曲家ジャン＝フィリップ・ラモーに捧げたもので、厳かな雰囲気がある。「第3曲 運動」は、運動を音楽で表現したユニークな曲。 《超絶技巧練習曲》は、初稿が1826年、リスト15歳のとき、さらに二度にわたる改訂を経て、第3稿（現行版）が出版されたのは1852年、リスト41歳の頃だった。全12曲からなり、師カール・チェルニーに献呈されている。「第8番 荒野の狩」は、のんびりした牧歌的な狩の風景ではなく、激しく馬を駆るような荒々しい狩である。「第11番 夕べの調べ」は、静かな夕べの抒情に満ちた曲。「第10番 熱情」は（リストによって付けられた標題ではないが）その曲調から「熱情」という副題で呼ばれることもある。せき止める術もない熱情に浮かされるような曲。 フォーレの夜想曲は13曲あり、全創作期にわたって書き継がれた。第6番は、第5番から10年の時を経て、フォーレの円熟期にあたる1894年に作曲された。フォーレの夜想曲のなかでも特に霊感あふれた曲想を持ち、冒頭から心に沁みる美しさがある。 リストはハンガリー王国の生まれで、終生ハンガリーに祖国の思いを抱いていた。「モショニーの葬送」のミハーイ・モショニーは、19世紀ハンガリーの作曲家。リストとも親交があり、1870年に肺炎で亡くなった。リストは彼を偲び、同年この葬送曲を書いた。リストは晩年に3曲のピアノ用チャールダーシュ（ハンガリーの民俗舞踊）を書いているが、この「死のチャールダーシュ」はその中で最も有名で、1881～82年の作品。通常はラッス（遅い部分）とフリス（速い部分）があるが、本曲はラッスなしのアレグロで始まる。「暗い雲」は、1881年の作品。リストの晩年はそれまでの華やかなピアニスト人生に比して、暗さと憂鬱さがつきまとった。2分余りの短い小品だが、神秘的とも言える境地が表れている。 初期は後期ロマン主義の作品を書いていたシェーンベルクだが、やがて調性の枠を超えた方法論を新しく模索するようになる。1911年に作曲された「6つのピアノ小品」は、1分前後の非常に短い小品からなるピアノ作品で、最初の5曲は1911年2月にたった1日で書き上げられ、最後の6曲目は同年5月に亡くなったマーラーの追悼として翌月に書かれた。調性を完全に放棄した最初の作品とも言われ、この後にシェーンベルクの無調時代を代表する作品《月に憑かれたピエロ》が発表される。 「飛行機に乗って自殺」は、いわゆるトーン・クラスター（ある音から別の音まですべての音を同時に弾く房状和音）を用いた作品として有名で、20世紀アメリカのピアニスト・作曲家であるレオ・オーンスタインがおそらく1918年か19年に作曲したとされている。オーンスタインは非常に長命で、20世紀をまるまる過ごして、109歳まで生きた。