東博でバッハ vol.64　神田寛明（フルート）＆小倉貴久子（チェンバロ） by Bach, J. S., Aπό (2023/2023), Tokyo National Museum - Heiseikan, Uenosakuragi, Japan

J.S.バッハの作品 フルートと通奏低音のためのソナタ BWV1034 　自筆譜がなく作曲年代は諸説あるが、ケーテン時代の1720年頃とされる。4楽章からなり、緩／急／緩／急の教会ソナタ形式を採用している。バッハらしい充実した作品で、第1楽章は、哀調を帯びたフルートの旋律と通奏低音の静かな対話が印象的。第2楽章は、軽快な主題展開のあと、長めの間奏が続く。第3楽章は、通奏低音のシンプルな前奏を受けて、フルートが気品を湛えた旋律を歌う。第4楽章は、溌剌とした舞曲調。小気味よい通奏低音との掛け合いが聴きどころ。 フルートと通奏低音のためのソナタ BWV1035 　作曲年は諸説あるが、ケーテン時代の1720年頃とされる。4楽章構成で、第1楽章は、ゆったりとした旋律に魅力があふれている。第2楽章は、流麗な冒頭モチーフが印象深い。第3楽章は「シチリア風」という意味の古い舞曲で、ためらいがちに揺らぐようなリズムが特徴的。第4楽章は溌剌とした音楽で、明るく曲を閉じる。 無伴奏フルートのためのパルティータ 　1722～23年、ケーテン時代の終わり頃の作とされる。バッハ唯一の木管楽器による無伴奏作品で、4つの舞曲が並ぶ。通常はジーグで終わる最終楽章が「ブレー・アングレーズ（イギリスのブレー）」となっているので、バッハが最終楽章を書かなかったのではないか、と考える向きもある。全楽章を通してほとんど休符がなく、高い演奏技術を要する。 トッカータ BWV912 　7つあるバッハのチェンバロのためのトッカータ（BWV910-916）のなかでも最初期のもので、アルンシュタット新教会のオルガニストを務めていた時代（1707年頃）の作とされる。トッカータ（試し弾き）らしい即興的な走句の導入にアレグロ、愁いを帯びたアダージョが続き、フーガとトッカータ風のコーダ、そして16分の6拍子によるジーグ風のフーガから超高速のコーダに入り、最後は2小節のカデンツで落ち着いて曲を閉じる。 フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ BWV1032 （A.デュルによる補筆版） 　1720年頃、ケーテン時代の作とされる。第1楽章の後半部分が逸失しており、ベーレンライター社の新バッハ全集（2007年刊）の校訂に携わったドイツの音楽学者アルフレート・デュルが補筆した。急／緩／急という3楽章形式を採用しており、快活な両端楽章に挟まれた第2楽章ラルゴ・エ・ドルチェでは、美しい旋律を聴かせる。 フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタBWV1030 　ケーテン時代にト短調の曲として書かれ、ライプツィヒ時代（1735年頃）にロ短調に改められた。バッハのフルート・ソナタのなかでも人気が高い。第1楽章アンダンテは、冒頭の旋律が有名。第2楽章ラルゴ・エ・ドルチェは、心に染みわたる主題が印象的。第3楽章は、前半のプレストから後半はアレグロのジーグへと続いて、曲を締めくくる。